本の感想:檻の中のダンス
「人生で最も影響を受けた本は何か。」
そう聞かれれば僕は何の迷いもなくこの本の名前をあげる。もっとも、就活で同じ質問を受けた場合には絶対他の本を選ぶが。「青少年のための覚醒剤入門」。こんなチャプターが含まれる本をあげたら問答無用で落とされるのはわかりきっているからだ。
僕が初めてこの本を手にしたのは大学一回生、18歳の時だ。高校時代、友達がほとんどおらず、本ばかり読んでいた僕は、大学に入っても一人も友達ができなかった。暇つぶしのために毎日図書館に通って本を貪るように読んでいた僕は、1980~1990年代のサブカルチャーに興味を持つようになった。
そんな中で、90年代サブカルを代表する本「完全自殺マニュアル」の著者、鶴見済の名前を知った。ほんの興味で、大学の図書館の検索端末に鶴見済の名前を入れたら、さすがに「完全自殺マニュアル」は無かったものの、「無気力製造工場」と「檻の中のダンス」の二件がヒットした。僕はこの二冊を借りて、いつものように学生寮のベッドで横になりながら読んだ。
「檻の中のダンス」を初めて読んだときは衝撃を受けた。著者の覚醒剤所持容疑での留置所体験記から始まり、覚醒剤やエクスタシー(MDMA)について肯定的に触れ、挙句の果てには著者の欧米での薬物使用記まで載せられているこんな本が、大学の図書館に所蔵されているのがなによりも驚きだった。特に「青少年のための覚醒剤入門」というチャプターには何回も目を通した。(僕は違法薬物使用経験も使用するつもりもないこと、また違法薬物の使用を勧める気も一切無いことを断っておく)
最初は、一種の怖いもの見たさでこの本を読んでいたが、何回も読み返すうちに、この本はただドラッグを賞賛するだけの本ではないということが分かってきた。過度な競争を強いる社会、同調圧力、規範の押し付けetc..そういったものへの反発を、著者はこの本を通して訴えているのだということが理解できたのだ。
タイトル「檻の中のダンス」が指す檻とは、著者が収監された留置所のことだけではなく、学校や職場など、監獄と同じように息苦しい僕たちが生きる社会も含まれているのだ。「檻の中」でなんとかやり過ごすための手段として、著者はダンスやドラッグの使用を推奨しているように見える。
この本が書かれた当時の著者のスタンスと現在の著者のスタンスにはだいぶ開きがある。当時は「檻の中」でのささやかな抵抗としてダンスをしろと言っていた鶴見は、現在では、「脱資本主義宣言」なる本を出し、「檻の中」から逃げ出すよう呼び掛けている。
現在の状況は、この本が書かれた90年代から何も変わっていないように見える。大卒か高卒か、また同じ大卒でも卒業大学によって人生の進路が決まり、また、なにか一つ不祥事を起こしただけで死ぬまでネット上でバッシングされる。もしかしたら、今は90年代よりもさらに状況は悪くなっているのかもしれない。
そんな中でこの本が提示する問題意識は全く古びれない。過剰競争とネットの発展に伴う同調圧力が増した今こそ一読を勧める本である。